『0(ゼロ)の決死圏』(The chairman)1969米

 なぜグレゴリー・ペックがこんな映画に出たのか不思議だ。ショーン・コネリーの007シリーズのヒットに対抗したとは思うのだが、ストーリーはともかくセットがちゃちすぎる。B級だ。ウルトラ警備隊の基地より酷い。スチールの防護ドアなんてベニヤ板に銀の絵の具を塗ったのが見え見え。
 何より酷いのは香港の風俗描写。香港のカジノのシーンでは、女性がチャイナドレスを着て日本の髷を結っている。ホテルでは部屋に入る時に靴を脱ぎ、なんと靴をドアの外、廊下に置くのだ。中国とは国交がなかったかも知れぬが、香港なら往来していただろうに。酷すぎる。
 グレゴリー・ペックほどの俳優が出る映画とは思えぬ。
 邦題は意味不明。否、意味はあるが中身と掛け離れている。原題の”The chairman”は”主席”のことだ。毛沢東のことである。
 当時の閉ざされた中国の様子を見せてくれる。中国人民は毛沢東主席の言葉がかかれた赤い本を掲げて熱狂する。共産主義に背を向ける者を排斥する。なんだか今の北朝鮮を見るようだ。
 香港の風俗描写を見ても、この中国人民の描写が真実を伝えているとは思えない。しかし、当時のアメリカ国民が中国をどういうふうに見ていたのかは分かる。現代の日本人が北朝鮮を見るような目で、アメリカ人は中国を見ていたのだ。