きょうの料理
教育テレビの『きょうの料理』をときどき見る。マッチ棒のようにひょろりと高いアシスタントの女性(女子アナかな?)が好きだし、個性豊かな料理の先生が面白い。特に今日の先生は味があっていい先生だった。おばあちゃんなのだが大らかで優しい。
煮物の途中で「鍋返し」というのをする。鍋を揺すって煮物の上下を入れ替えるのだ。その際、シャモジやお玉で交ぜると煮物がくずれてしまう。鍋を揺すって混ぜるのが美味しい煮物をつくるこつだ。
先生はその「鍋返し」の行程を忘れていたので、アシスタントがフォロー。
「先生、ここで鍋返しをするんですよね」
「あら、そうそう、鍋返しで上下入れ替えて上げてくださいね」
「シャモジやお玉で混ぜると崩れるから、鍋返しで混ぜないといけないんですよね」
アシスタントが段取り通りに再フォロー。ところが先生はマイペース。
「そんなのどうでもいいの」
横でアシスタントが吉本新喜劇のようにずっこけていた。
片栗粉をまぶした鴨肉を鍋に入れる行程がきた。あらかじめ片栗粉をまぶした鴨肉が用意してある。しかし、片栗粉は湿気て白い色が消え、まだらに振りかけたようにしか見えなくなっていた。
そこで先生、
「あらあら、これじゃあだめよ。こんなんじゃだめ。片栗粉はないの? こんなのじゃ美味しくならないわよ。片栗粉はお鍋に入れる前にまぶさないといけないのよ」
おっとりした口調なので嫌みがない。片栗粉を用意して上げたくなる。
「そうですね、本当はここで片栗粉をまぶすんですよね」
進行上、アシスタントは先に進もうとする。この番組は無編集で放送されるので時間内に収めなくてはいけない。でも先生はやはりマイペース。焦るアシスタントをよそになかなか鴨肉を鍋にいれない。
「それそれ、それでいいわよ」
画面の陰でADが差し出したのだろう、先生は片栗粉を受け取ると、たっぷりと鴨肉に振りかけた。なるほど、準備されていた鴨肉と全然違う。
「こうやって、お鍋に入れる直前にまぶさないと美味しくなりません」
結局、試食のコーナーはなくなった。